前立腺は、男性にしかない生殖器の一つで、膀胱の出口で尿道を取り囲むように存在しており、精子に対して栄養を与えたり、運動能力を高めたり、保護したりする役割のある前立腺液を作る働きがあります。
また、射精や排尿を調節する役割も担っているため、前立腺が大きくなると尿道や膀胱を圧迫し、排尿障害を起こすことで前立腺肥大症になります。
通常は卓球の玉(またはクルミ大)くらいの大きさですが、肥大すると卵やみかんほどの大きさになります。
良性の疾患であるため、進行して悪性の前立腺がんに変化することはないとされています。
ただ、逆に前立腺がんが原因となり前立腺肥大症を発症するケースはあるといわれています。
排尿症状、蓄尿症状、排尿後症状などの症状があり、第1期〜第3期の間で進行の度合いにより症状が異なります。
頻尿や尿の勢いが弱くなる
お腹に力を入れないと尿が出ない、
尿が出るのに時間がかかる、
残尿感がある、尿が途切れる
頻尿になり、
1回の排尿時間が長くなる
尿が全く出ない尿閉という状態に陥ることがあり、腎不全を引き起こします。
また、突発的に強い尿意に襲われる尿意切迫感、トイレまで我慢できずに失禁する切迫性尿失禁などの症状が出ることもあります。
50歳から年齢が上がるにつれて症状が出る方が多いことから、
加齢により男性ホルモンの働きが変化し、ホルモンバランスが崩れることが原因と考えられています。
また、肥満や高血圧、高血糖、脂質異常症、メタボリック症候群といった生活習慣病との関連性を指摘する声もあり、
毎日の食生活や適度な運動が予防になるとも言われています。
前立腺肥大症は、以下のような症状を併発する可能性があります。
前立腺肥大のために、尿道粘膜の充血が起こり、前立腺部の尿道粘膜から出血して、血尿が出やすくなります。
排尿障害のために、膀胱内に残尿が残るようになると、尿路感染が起こりやすくなります。
膀胱内に尿が充満しているのに、尿が出ない苦しい状態のことを尿閉と言い、前立腺が大きくなるほど起こりやすくなります。
また、尿を我慢しすぎると尿閉を引き起こすこともあります。
前立腺肥大症を罹患しており、それ以外の病気の治療で服薬した場合、そのことが原因で尿閉になってしまう場合があるため注意が必要です。
おしっこを我慢するなど、膀胱内に常に残尿がある状態が続くと、膀胱内に結石ができることがあります。
膀胱内に多くの残尿があったり、排尿障害のために膀胱壁が高度に厚くなると、腎臓から膀胱への尿の流れが悪くなります。
それが原因で、腎臓が腫れてしまう水腎症となり腎不全を引き起こすことがあります。
溢流性尿失禁は、膀胱内に常に多く残尿が存在するため、膀胱内に貯められる尿の量を超えてしまい、
ダムから溢れた水のようになり、いつも尿がちょろちょろと出ている状態です。
前立腺肥大症に対しては、まず薬物治療を行います。
しかし、上記のような合併症を発症した場合には手術による治療を行います。
症状の程度が軽い場合は、薬物療法を施し様子を見ます。
前立腺や尿道の筋肉を緩めることで尿の通りを良くするアルファ1遮断薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬や、男性ホルモンの働きを抑えて
肥大した前立腺を小さくする抗男性ホルモン薬、前立腺の炎症を鎮める漢方薬や植物製剤などを用いて治療します。
症状が進行し、薬物療法の効果が見られない場合は手術を行います。
手術の方法として、尿道から内視鏡を入れて肥大した前立腺を電気メスで取り除く方法(TURPまたはTUEB)、内視鏡とレーザーを使って
前立腺を切除する方法(CVP)、水蒸気を使って前立腺を小さくする方法(WAVE)などがあります。
患者様の症状の程度や状態に合わせて適切な手術法を選択します。
また、前立腺は肥大していても、特に症状や合併症が見られない場合は、治療せずに定期的な経過観察のみを行うことがあります。
経尿道的水蒸気治療(WAVE)は、内視鏡と専用の器具を用いて高温の水蒸気を前立腺組織内に噴霧・充満させ、肥大した組織の細胞を壊死させることで前立腺肥大症を治療する最も低侵襲な手術療法です。
2022年9月に保険適用となった最新の治療法で、当院でも2023年5月に導入しました。
通常は脊椎麻酔と全身麻酔の併用、場合によってはそのどちらか単独で行います。
①~②内視鏡を用いてデリバリーデバイスという専用器具から103℃の水蒸気を前立腺組織内に噴霧・充満させると、治療部位の組織が70℃に熱せられ、組織は壊死します。
③壊死した細胞は1~3ヶ月かけて自然に体内に吸収され、肥大した前立腺が小さくなって尿道が広がり、排尿に関わる症状が改善されます。
手術時間はきわめて短いですが、術後のカテーテルを抜くまで3~7日かかります。
さらに、前立腺が小さくなるまでに1~3ヶ月を要するため、症状が改善されるまで時間がかかります。
特に尿閉患者さんでは、カテーテルが抜けるまで1ヶ月以上かかる場合があります。
【注意】現時点では全ての前立腺肥大症に適応がある訳ではないため、治療に当たっては主治医との相談が必要となります。
接触式レーザー前立腺蒸発散術(CVP)は、肥大した前立腺組織に光ファイバーを接触させてレーザー光を照射することで、前立腺組織に高熱を与え、組織中の水分や血液を一瞬で沸点に到達させて蒸発させ、組織を気化して消失させてしまう低侵襲の手術方法です。
通常は全身麻酔で行います。
当院では、2018年2月に北海道で初めてCVPを導入いたしました。
①膨大した前立腺組織にレーザーファイバーを直接接触させます。
②高出力のレーザーで細胞中の水分を一瞬で沸点に到達させ、組織を気化させます。
③ほとんど出血をさせずに膨大した前立腺組織を除去することができます。
接触式レーザー前立腺蒸発散術(CVP)による手術を受けても男性機能障害(ED)にはなりません。
CVP、TUEB、TURPなどWAVEを除く従来の経尿道的前立腺手術では、不可逆的な逆行性射精(射精液が膀胱側に排出されて、前に出てこない合併症)が高率に起こりますが、健康に対する悪影響はありません。
経尿道的前立腺核出術(TUEB)は脊髄麻酔(いわゆる下半身麻酔)と全身麻酔の併用で行う内視鏡手術です。
従来行われてきた経尿道的前立腺切除術(TURP)の合併症などを軽減する方法として開発された方法です。
尿道から内視鏡を挿入して前立腺を観察しながら、電気メスとスパチュラという剥離子を用いて肥大した前立腺組織を核出します。
核出した前立腺組織は膀胱の中で特殊な機械で細切して体外に取り出します。
上記TURPより、前立腺肥大症をより完全に取り除け、かつ出血が少なく、そのため短い入院期間で済みます。
当院は、2008年2月に北海道で初めてTUEBを導入いたしました。
①膨大した前立腺組織をみかんの実を皮からはがすように核出します。
②核出した前立腺組織を膀胱内に移動させます。
③モーセレーターという機器を用いて前立腺組織を細かく切断しながら吸引し、体外に排出します。
尿失禁などの合併症が、起こらないわけではありませんが、従来行われてきた経尿道的前立腺切除術(TURP)と⽐較すると、合併症を軽減できる手術法です。